2022/09/29
外谷さんブデブデ日記番外編 私のあるBEST3
ある、などと思わせ振りな書き方をしたが、単にTV放映された未公開映画のお気に入り3本のことである。しかし、最初の1本を観てから60年、最後の1本から50年ー半世紀を経てなお、このベスト3には揺るぎがない。全てビデオとDVD化されているから、しつこく見直しているが、何度観ても面白い。胸が踊る。
第三位は「要塞警察」
ご存じジョン・カーペンターの傑作で、学生時代に観て、度肝を抜かれた。どんなに抜かれたかというと、この出不精の私が、既に二番館三番館に落ちていたカーペンターの出世作「ハロウィン」を求めて、京成の青砥まで押し掛けたほどである。正直に言うと、私はカーペンターも「ハロウィン」も大して評価していないが、「要塞警察」だけは
頭抜けてスゴいと思う。ただし、これにはある意味情けない事情が絡んでいる。
ご存じの通り、これはロスにある警察の分署に、罪もない娘をストリート・ギャングに無意味に射殺された父親が、その犯人を殺して逃げ込んでくる。彼を追ってきたギャングたちによる包囲戦が開始されるが、この分署はなんと引っ越し当日。武器は箱詰め、電話線も切られた上、周囲には建物もなく、完全な孤立無援での戦いを強いられる。警官たちは次々に倒され、残ったのは、男女三人と半ば失神状態の父親のみ。幸い男女の警官以外の一人ー護送の途中に立ち寄った凶悪犯罪者が獅子奮迅の活躍を見せる。
鍵のかかった銃器箱の中から、間一髪取り出したショットガンで、ギャングたちを薙ぎ倒すシーンの迫力はいつか小説にしようと思いながら、まだ果たしていない。
何より私を驚かせたのは、カーペンターが、このどこから観てもアクション映画をホラー映画として撮っていることだった。地下から侵入してくる無言のギャングたちは、衣装も顔も黒く塗りつぶされたエイリアンそのものであり、サイレンサー付きライフルで打ち砕かれるガラス窓は囁くような音しかたてない。正しく得体の知れぬ怪物なのである。なんてスゴい監督が出てきたんだ、さすがハリウッドと感動していたら、ハロウィン」以下の諸作を見るたびに私の感動は冷めて行くばかりであった。
「要塞警察」自体もDVDで見直してみると、あらららら。ギャングたちの顔ははっきりみえるし、ガラスの破壊音も普通であった。ようするに、受信状態の悪いアパートでみていた白黒TVを、隣室の迷惑にならぬよう音量を下げていたために、意外な効果が生じてしまったのである。
この他にも問題はいくつもあるが、初回のイメージは今も私の記憶に残り、ひょっとしたらこの監督はいつか何かをやらかすかも知れないと、希望の焔を灯し続けているのである。
第二位は「恐怖の火星探検
」
高校時代に実家で観た。「土曜映画劇場」(だったかな)の1本で、AIPのとんちきフランケンシュタインや狼男ものも一緒だったから、これもAIPかと思っていたら、ヴォーグ・ピクチャーなるプロダクションの製作であった。監督はやはりAIPで低予算SFやホラーを作っていたエドワード・L・カーン。主演はマーシャル・トンプソン。面白いのは脚本で、あららジェローム・ビクスビイ。「ミステリー・ゾーン」で映像化された短編「今日も上天気」一作で名高い作家だが、この映画では、ホントにSF作家かよと目を剥きたくなるムチャクチャぶり。侵入していた火星人めがけて、宇宙船内で拳銃は撃つ、手榴弾はドカン、最後などバズーカ砲まで撃ちまくる。ま、スペオペでは船内で熱線銃など平気で撃ちまくっていたから、たかがバズーカと思ったのかも知れないが、いい度胸ではある。確かにこれがなければ、この映画ちっとも面白くなかったであろう。火炎放射器とゆー手もあるが、予算が追い付かなかったとみる。しかし、一応、高圧電流も放射線も試してはいるのが、嬉しいなあ。まてよ、原子炉とバズーカ砲か。やっぱりスゲーや。乗組員たちは次々に死んで行き、いよいよラスト。空気の減り具合から怪物が人間同様酸素を吸って生きていると知った人々は、船内の空気を抜き、さいごのハッチを破って襲いかかってきた怪物をようやく仕留めるのであった。
「エイリアン」の元ネタとも言われる作品だが、そんなことは知らないで観た私には、スリル満点サスペンスばっちりの大傑作であった。設定はSFだが、正しくはモンスター・ムービーであろう。しかも迫る怪物、逃げる人々に絞った脚本には余計な挾雑物がいっさいなし。乗組員の殺され方もスピーディーで、追い詰められる恐怖も良く出ていたし、いやあ、面白かったよ、ビクスビイ。低予算SFにも例外的に傑作があると知った記念すべき1本。宇宙船を舞台にした傑作にはもう1本、かのマリオ・バーバの「バンバイアの惑星」があるし、映画的な出来はこちらの方がいいのだが、後味が少しねえ。我が国のTV映画ももサスペンス劇場でいいから、こういうのをたまにこしらえてくれると見直すんだけどな。
さて第一位は、ジャーン「悪霊の棲む館」。
といっても、分かる人は少ないだろう。DVDタイトルは「襲い狂う呪い」。ホラー・ファンならご存じ、H・Pラヴクラフト「異次元の色彩」の映画化である。監督は長年ロジャー・コーマン率いるAIPで腕を奮っていた名カメラマン=ダニエル・
ハラー。またAIPかよと、全然期待しないでみたら、タイトルでドキリとした。ラヴクラフトも「Color From Space」も知っていたし、何より脚本がジェリー・ソール。「アウターリミッツ」第一作「火星、その恐るべき敵」を担当したご仁である。ひょっとしたらと、期待した気分、わかって頂けるかどうか。しかもしかもしかも、出演がTV「西部の反逆児」や東宝の「サンダ対ガイラ」でお馴染みニック・アダムスと、ホラーキング・オブ・キングス=ミスター・ボリス・カーロフ。
期待は裏切られなかった。作り方が古典的なせいで、まず当たらないと判断された(これは同感)故の未公開だろうが、いやあ、面白いの何の。正直言って昨今の原作に忠実な力作より遥かに興奮しましたね。あの原作を製作当時のホラー・テイストに合わせた典型的な怪奇映画タッチで押しきったのが成功の原因である。
変身した人間はやはり暴れまわらなくてはならないのだ。しかも、製作陣は原作がSFだと言う事実を忘れてはいない。変身したカーロフの出てくるシーンに流れる効果音は明らかに機械音なのである。
恋人に会うべくアーカム(!)にやって来た若者が体験する怪異という基本設定は、怪奇映画の普遍だし、変身した人間の扱いも、下手に凝らずに典型的なのがよろしい。隕石の放射線で狂った下女の味付けも、幽霊屋敷ものの雰囲気を壊していない。
私がイカれたのは、何よりも、主人公の訪れるウェイトリー家までの道筋の描写であった。荒野の真ん中に口を開けた隕石孔、枯れ果てた樹木、揉まれただけで崩れるその枝。単純なグラスペイントだが、いやあ、この先に待つ出来事を連想させるに十分な効果を挙げていた。
カーロフの演技は普通の出来栄えだが、この人くらいになると、出てくるだけで画面が盛り上がる。大したものである。ニック・アダムスも好演。今でこそ、DVDでいくらでも見返せるが、あの時代は、明らかに大作のおまけに付いてきたB級C級映画など一回こっきりの放映が命。いいものを見たなあと感激しながらも、ああこれっきりかと、しみじみしたものだ。
他にも西部劇やらギャング物やらのベスト3もあるのだが、それは別の機会に。
ハワイでも横浜でも大惨事が起こらないので、外谷さんの体調悪化がしんぱいである。一説によると、ウクライナの土地分配でプーチンと揉め、暗殺部隊に追いかけ回されているらしい。早く返り討ちにしてしまえ。
ま
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