外谷さんブデブデ日記(53)

久しぶりに「悪魔のいけにえ」をみる。電ノコ殺人の記念すべき第1作である。ルポライター時代に無料チケットをもらい、それをある先輩に譲ったら、彼女と行ったらしく、後で「えらい物見せてくれたなあ」とスゴまれた。しばらくして二人は別れたらしい。
これを外谷さんが見てしまった。
確かOB会の二次会だったと思う。半世紀近く前の話である。渋谷の「ブリック」というバーであった。外谷さんは彼氏と映画を観に行って、後で合流するという話であった。
やがて来た彼女はひどくコーフンしていた。彼氏と喧嘩した風もない。これは只事ではないと思い、わたしは席を変わった。席につくや、外谷さんは真っ赤な顔で、スゴいんだぞー、ノコギリでバラバラにしちゃうんだぞーと言い出した。見たなと思った。外谷さんはさらに、前の席にいた後輩に、
「がーっ」
とさけんで電ノコを振り下ろした。
あの映画をみて喧嘩別れするのは正しい。殴り合いもいいだろう。しかし、がーは間違っている。後輩は固まってしまい、私は口を開け、部員たちは総立ちになった。そして外谷さんは他の客もいる店内で、「がーっがーっ」と電ノコを振り回し続けているのであった。何と言ったらいいのか良くわからない青春のヒトコマである。
なんと飾らない、あたしあたしの生き方をする女だろうと、私は嬉しくなった。

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飾らない……?
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