外谷さんブデブデ日記(73)

田辺剛「ダニッチの怪」三部作を読む。ちと退屈。大力作だけに疲れる。これは田辺氏のせいではなく、原作がコミック化に向いていないのだ。つまり大したことが起こらないのである。ヨグ=ソトースの息子ウィルバー・ホウェイトリーにしても、異常な発育ぶりが目を引くだけで、行動自体は普通人とさして変わらない。物語がらしくなるのは、2巻目の半ばー大学に押し入ったウィルバーが、番犬に食い殺されて(ちと情けない)からである。ところがここも、凄まじい描写にも拘わらず、何処か類型的だ。最高の描き手を持ってしてもーこの点が想像力に訴える小説と、全て具体的にならざるを得ない漫画の差なのだがー人間の筆では異次元の生物を描きだせないのである。最大の見せ場ーヨグ=ソトースの不可視の息子がその姿を現すラストもその弊を免れてはいない。あれほど緻密かつ迫力たっぷりな描写さえも、平凡から逃れ切れていないのだ。
正直に言って長すぎる。こう感じるのは、田辺氏の思い入れが強すぎるためだろう。原作ではただの片田舎程度の扱いでしかないダニッチや名前がついているに過ぎない村人に対する過度の感情移入に、私はあまりにも日本人的な感傷を感じて、首を傾げざるを得なかった。この辺はアメリカの読者に聞いてみたい気がする。

コメント

非公開コメント